2024年7月15日、ダッカのProgati Sarani Rd(Notun Bazar付近)で見た学生たちの抗議は、公務員採用枠の公正性を求める静かな要求だった。そこから数日で緊張は高まり、7月19日には道路の中央分離帯の破壊や燃えるタイヤ、鉄パイプを持つ群衆が現れ、警察の姿は消えた。8月5日には政権の退陣という節目が訪れ、直後には学生と市民の間で静かな連帯が広がり、壁には「自由」や「犠牲」を描いたグラフィティがあふれた。学生と市民が協力して社会インフラを支え、互いに飲み物を差し出すような共助の光景も生まれた。だが、祝祭の熱は徐々に冷め、内部の意見のズレも顔をのぞかせ始めている。そしてあの日からちょうど1年──。街のあちこちに残るのは、「次の正統性」を誰がどう作るのかという問いだ。公正で自由な選挙への期待とその実現に絡む駆け引きが入り混じるなか、現場の視線は変化の行方を探り続けている。
背景と発火点
2024年の夏、政府の公共部門採用におけるクォータ制度の不透明さと不公平感が引き金となり、大学生を中心に「Students Against Discrimination」を核とした抗議運動が全国に広がった。当初の要求は公務員採用枠の見直しであり、制度の透明性を求める静かな市民の声だったが、政府の抑圧的対応と大量の弾圧(いわゆる7月の惨事)が運動をエスカレートさせ、「July Revolution」と呼ばれる大衆的蜂起へと転じた。結果として8月5日にはシェイク・ハシナ首相が辞任・国外退避し、憲法に前例のない空白を背景にムハマド・ユヌスを中心とした暫定政権が形成された。
火種の記憶:7月15日、Progati Sarani Roadの静かな要求

2024年7月15日、Progati Sarani RdのNotun Bazar付近でのデモを目にした。ランチに向かう道すがら、交通が止まっていることに気づき、その原因が学生たちによる道路封鎖だとわかった。要求は明確で、公務員採用の枠の公正性を求めるものだった。活動は平和的で、周囲には「自由」「公平」といった思いを象徴する雰囲気があった。最初の動きは、制度の公正・透明性を求める静かな市民の声だった。
急速な激化:7月19日頃の現場

その数日後、運動は鋭く変化した。7月19日には公共物が破壊され、燃えるタイヤが置かれた道路を、鉄パイプを持った人々が練り歩く光景が広がった。標的とされた警察は街から姿を消し、政権と結びつきがあると見なされた施設や企業にも矛先が及んだ。政府は外出禁止令を出し、軍を動員して街を巡回させ、強権的な抑え込みに拍車がかかった。沈静化のための全国規模の通信遮断も功を奏さず、市民の不満と不安をより深めることになった。
8月5日:転換点と社会の即応

8月5日が転換点となった。首相の辞任と国外退避を受け、学生・市民は街に出て祝福し、かつて政権支持を表明していた人々もその変化にあわせて態度を変えた。SNS上では数日前まで政府擁護だった人々が学生とともに勝利を喜ぶ投稿が見られ、政治的なアライメントの流動性――過去にALとBNPが交代するたびに支持が切り替わってきた文脈の延長として、「正解」に素早く適応する現実的な振る舞いも浮かび上がった。この期間、街の壁には「自由」「犠牲」「未来」といった言葉を込めた学生たちのグラフィティがあふれ、警察が不在な中で学生が交通整理の役割を担い、市民が飲み物を提供するような共助の形も見られた。一時的な連帯感が社会的空白を埋める役割を果たしたが、祝祭的な高揚は徐々に「学生内部の温度差」や、勢いを得た一部の振る舞いへの懸念といった形で揺らぎを見せ始めた。
今日までの余波と見え始めた課題
シェイク・ハシナ元首相退陣後、民主的改革と説明責任の徹底を約束して暫定政府が設置され、体系的な憲法再整備や公正な選挙に向けての議論が始まった。1年を経て「革命の約束をどう実体化させるか」の方向性の調整が続き、暫定政権は安定と正統性確保のバランスをとりながら前進を模索している。
また、元政権関係者への責任追及としての公判も進んでおり、シェイク・ハシナ元首相に対する国際的にも注目される裁判が2025年8月初頭に始まっている。これが今後の政治的対立と国民の受け止め、また来年行われるとされる選挙にどう影響するかが新たな焦点となっている。
中立的第三者目線での考察
自律の兆し:警察不在時、学生と市民の一時的な自助的秩序形成があったのは、社会的信頼の潜在的な基盤を示すものだった。
政治的アライメントの流動性:支持・擁護の表明が政局の風向きで変わるのは歴史的に繰り返されてきたが、それが「現実的な生存戦略」なのか「本質的な理念の欠如」なのかは、今後の動きで見極められる。
革命の温度差:最初の理想とその後の内的摩擦が顕在化しつつある。これが次の段階での再編成か、分裂の芽かは注視に値する。
参考リンク: https://www.hrw.org/news/2024/08/06/bangladesh-prime-minister-hasina-resigns-amid-mass-protests
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